自社のコーポレートサイトのリニューアルを任され、失敗の原因を調べてみたものの、自分の案件では何に気をつければよいか迷っていませんか。
制作会社のディレクターとして、序盤から遅れ気味のリニューアルを抱え、どこで手を打つべきか考えていませんか。
サイトリニューアルの失敗の原因として、目的の曖昧さや SEO の引き継ぎ漏れなど、多くの項目が挙げられます。ただ、実際に多いのは「公開が遅れる」と「公開後に不具合が出る」の2つで、どちらも単独の原因では起きません。前工程で終わらなかった作業が後工程に押し出され、最後に実装と検証の期間を削って吸収される流れの中で起きます。この記事では、弊社が担当し、公開が1か月遅れた案件を例に、遅れが後工程へどう波及するかを説明します。そのうえで、発注側と制作会社のディレクターがそれぞれ工程表のどこを見ればよいかをお伝えできたらと思います。
公開の遅れや不具合は、終わらなかった作業が後ろへ押し出されて起きる
公開の遅れや公開後の不具合の多くは、前工程で終わらなかった作業が後工程に押し出されることで起きます。サイトリニューアルは調査、情報設計※1、デザイン、実装※2、検証の順に進み、それぞれ前の段階で決めたことを前提にします。前の段階が予定どおりに終わらなければ、残った作業と修正を抱えたまま次の段階に入り、その分だけ後の段階に使える期間が減っていきます。
たとえば、情報設計が終わらないと、デザインと CMS の構築は手戻りを抱えたまま後ろにずれます。ずれた分は最後に実装と検証の期間を削って吸収されがちです。実装を急げば検証で見つかる不具合が増え、修正に想定以上の時間がかかります。その結果、公開が遅れるか、直しきれなかった不具合が公開後に残るか、あるいはその両方が起き、制作の工数と費用も膨らみます。
失敗の原因を解説する記事では、「仕様の肥大化」と「検証期間の不足」が別々の項目として並んでいます。しかし実際には、この2つは別々の問題ではなく、情報の膨張が最初に起き、その結果として検証期間が不足します。途中の工程で何が起きるかを知っておくと、自分の案件で同じ問題が始まっていないかを早めに見つけられます。
- ※1 情報設計:サイトマップ(ページの一覧と階層)やワイヤーフレーム(各ページの配置図)で、どの画面に何をどの順で掲載するかを決める工程です。
- ※2 実装と検証:デザインをもとにサイトを実際に構築する工程が実装、構築したサイトを動作確認して不具合を直す工程が検証です。
事例:公開が1か月遅れたコーポレートサイトのリニューアル
弊社が手がけた、CMS の構築と基盤システムとの連携を含む大規模なコーポレートサイトのリニューアルを紹介します。当時の状況を簡単にお伝えすると、オンライン会議が普及する前だったため、定例会は必ず客先で行っていました。現在では簡単に設定できる分科会も、時間や会議室の空き状況の都合で容易には開けませんでした。
また、クラウドのデザインツールも普及する前だったため、情報の共有はドキュメントベースが中心でした。クライアントのコメントも、Excel などで管理せざるを得ない時代でした。
事前調査が膨らみ、サイトマップの完成が遅れた
遅れが始まったのは、契約後、制作に入る前の事前調査でした。事前調査は制作会社がクライアント(発注側)の業種と事業を理解するための準備で、ここで集めた情報がサイトの目的や内容を決める土台になります。弊社では現在も、次の流れで進めています。
- 弊社(制作会社)がクライアントの業種と事業を調べる
- 調べた内容に誤りや抜けがないかを、クライアントへのヒアリングで確認する
- 確認を終えてから、サイトの目的や掲載する内容を決めるための調査とヒアリング(制作のための調査)を始める
この事例では調べる量も確認事項も膨らみ、確認が終わらないうちに制作のための調査が始まりました。序盤から2つの作業が並行し、後から始まった調査でも弊社が事前調査と同じくらい細かく話を聞いたため、集まる情報はさらに増えました。
情報が増えるほど、何を掲載するかの取捨選択は難しくなります。この事例ではサイトマップを作る手前の取捨選択に時間がかかり、サイトマップの完成が予定より遅れました。大規模なサイトでは情報設計の取りこぼしが後工程に大きく響くため、スケジュールを理由に取捨選択を打ち切ることもできませんでした。
情報設計の遅れはサイトマップにとどまらず、ワイヤーフレームにも及びました。ヒアリングと素材の確認の時点では掲載する情報はそろっていましたが、ワイヤーフレームの確認でクライアントから情報が足りないという指摘があり、修正することになりました。しかし、足りない分を加えようにも元になる素材がなく、弊社のライティング作業が当初の予定より増えていきました。それに比例してクライアントの確認量も増え、承認までに時間がかかりました。
情報設計が終わらないまま、デザインとシステムが先に進んだ
デザインの工程は、情報設計が終わらないまま始まりました。予定の時期が来たため、途中の状態で着手してそのまま進めました。その結果、情報設計を修正するたびにデザインも修正することになり、デザインの工数は想定を大きく超えました。
一方で、クライアントからのデザインへの修正依頼は、通常の案件と大きく変わりませんでした。遅れを広げたのはデザインの出来ではなく、情報設計が終わる前に着手したことです。
並行して進めていた CMS の構築にも、遅れは波及しました。システム側では情報設計が決まる前に、各画面で必要な機能を決めて進めていました。そのため最後に決まった情報設計と食い違い、機能の定義と設計をやり直すことになりました。現在なら、Figma などのデザインツールや Backlog などのタスク管理ツールで、画面の変更を比較的容易に共有できます。しかし当時は、画面を決める担当とシステムの担当が仕様書のやり取りでしか変更を共有できず、修正に追いつけませんでした。
遅れは実装と検証で吸収され、公開が1か月遅れた
プロジェクトの当初から公開日だけはずらせないという決まりがあったため、公開日を変更するのではなく、前工程の遅れを実装と検証の期間を削ることで吸収しました。実装期間が大幅に短くなったため作り込みが粗くなり、検証では想定を超える数の不具合が見つかりました。
さらに、着手できていない実装も残っていました。仮に残りの実装が終わったとしても、公開日までに不具合の修正が間に合わない状況でした。そのため実装を終えた直後にクライアントに説明し、公開を1か月延期しました。想定以上の工数をかけたことで、サイト自体は納得のいく品質に仕上がりました。しかしクライアントの公開予定は守れず、弊社も人員を増やして対応したため予算が大きく圧迫され、決して成功とは言えない案件になりました。
遅れの始まりは、制作会社の進め方にあった
この事例の遅れの始まりは、制作会社である弊社の進め方にありました。クライアントが自社を知ってもらおうと多くのことを伝えるのは、自然なことです。弊社には、調べる量とクライアントから受け取る情報の両方を早めに整理する仕組みがなく、次の3つができていませんでした。
- 公開情報で分からないことは制作会社側で調べ込まず、早い段階でクライアントに聞く
- 情報設計で、クライアントにもっと協力を求める
- 詰まりそうな工程に分科会(関わる人だけで開く小さな打ち合わせ)を置き、分けて進める
ツールが発達した現在も、同じ流れは起きる
前工程の遅れが後工程へ押し出されていく問題は、ツールが発達した現在も起きます。この事例では定例会のたびにクライアントを訪ね、担当者の間の連絡も文書のやり取りが中心でした。こうした連絡の遅さは、現在ならオンライン会議やタスク管理ツールで容易に補えます。しかし、遅れを生む原因の多くは人の判断や進め方にあり、ツールでは解決できません。
現在もよく見られるのは、次のような状況です。
- 制作会社が発注側の伝えたいことをすべて受け止めようとして、情報設計が詰まる
- 前工程の遅れを実装と検証の期間で吸収する進め方が、慣例になっている
- 実装の期間が極端に短く、検証で想定以上の不具合が見つかって作業が長引く
実装と検証の期間が削られやすいのは、発注側から見えない工程だからです。情報設計やデザインのような、発注側から進み具合が見える工程を縮めると、発注側は検討不足を心配し、制作会社への不信感につながります。その結果、承認に時間がかかることが多くなります。そのため遅れは、発注側から見えない実装と検証に回されがちですが、そこを削ると後で修正する手間が増え、結局は制作会社が自分の首を絞めることになります。
発注側は、工程表どおりに進んでいるかを確認する
発注側の担当者は、制作会社の工程表で次の2点を確認すると、この問題が始まっていないかを早めに見つけられます。実装の出来は発注側から見えませんが、作業の順番と期間なら、工程表と成果物の提出日で確認できるからです。
- ヒアリング、サイトマップ、ワイヤーフレームなどが工程表どおりに進んでいるか。遅れたまま、画面ごとのデザインが始まっていないか(会社概要のように掲載内容が決まっている画面を除く)
- 遅れを取り戻すために、実装と検証の期間が最初の工程表より削られていないか
危険な遅れの日数や、実装と検証に必要な月数は、全体の期間や規模で変わります。日数で判断するのではなく、上の2点のどちらかが起きていたら、制作会社に確認をとってください。最初の工程表と比べられるように、今のうちに次の2つを済ませておきましょう。
- 最初に受け取った工程表を手元に残す
- 各工程の担当者と成果物、成果物ごとの提出日と承認日が載っていなければ、工程表に入れてもらう
また、ヒアリングが工程表の予定を過ぎても続き、確認事項が減るどころか増えていくのも、同じ問題が始まっている兆候です。その兆候が見えたときや成果物の提出が遅れたときは、その時点で制作会社に理由を聞き、以降のスケジュールをどう組み直すかの案もあわせて出してもらいましょう。自社の承認が遅れているときは、社内で確認する人と期日を決め直し、何日ずれるかを制作会社に伝えてください。
遅れたまま画面ごとのデザインが始まっていたら、情報設計が変わったときにデザインをどう修正するのかを制作会社に聞いてください。修正分の日程を工程表のどこで見込んでいるのかも、あわせて聞いておきましょう。実装と検証の期間が削られていたら、範囲を減らすか、一部を公開後に回すか、公開日を動かすかの案を出してもらいましょう。どれにするかは予算と公開日に関わるため、決裁者と相談して決めてください。
また、情報設計の段階で制作会社から素材(写真や原稿)の提出や確認を求められたら、早めに応じましょう。何がサイトに必要な情報かは発注側からは判断しにくいため、無理に取捨選択をせず、手元にある素材はそのまま提供してかまいません。ただし、すべての素材を1つのフォルダに無造作に入れて渡すと、整理だけでかなりの時間がかかります。提出する前にどのように仕分ければよいかを制作会社に聞き、分かりやすくフォルダ分けをして渡すのが確実です。業務の細かな手順など、サイトに掲載しない情報は、制作会社に理由を示してもらったうえで、掲載しないことを一緒に決めてください。部署ごとに掲載したいことが多いときは、部署ごとに分けて決める場を設けてもらいましょう。
工程表の見方はこの記事では要点だけを説明しています。社内の確認や原稿の段取りも含めて詳しく知りたい方は、サイトリニューアルの進行管理で発注側がすることをご覧ください。
制作会社のディレクターは、一緒に絞り込み、工程を分け、早く聞く
制作会社のディレクターがすべきことは3つあります。発注側と一緒に情報を絞り込むこと、詰まりそうな工程を分けること、分からないことを早く聞くことです。どれも情報が膨らみ始めた初期の段階で手を打つためのもので、その段階にいるかどうかは次の兆候で判断します。
- 事前調査の確認が、制作のための調査が始まるまでに終わらない
- 予定の期間を過ぎても、ヒアリングのたびに確認事項が減るどころか増えていく
- サイトマップなど、最初の成果物の提出が遅れ始める
これらの兆候に加えて、後工程の期間を縮めて取り戻そうとしていたら、遅れはすでに後工程へ波及しています。兆候に当てはまったら、まず集まった情報を発注側と一緒に絞り込むことから始めましょう。サイトマップの承認が次の工程に間に合わないと分かった時点で、範囲や公開日の案を発注側に示してください。後工程の期間を縮めて公開日に合わせる前に、範囲と公開日のどちらを動かすかを決めておくためです。
情報設計では発注側に協力を求めてください。まず、集まった情報がサイトに必要かどうかを、発注側の担当者と一緒に見分けます。業務の細かな手順など、そもそもサイトに必要でない情報は、理由を添えて掲載しないことを発注側の担当者と決めます。残った情報はサイトの目的(誰に何をしてほしいか)に役立つ順に並べ、素材や原稿の提出と確認の期日も工程表に入れておきます。制作会社だけで取捨選択の案を作り続けると、承認が長引きやすくなります。
詰まりそうな工程には、分科会を置きましょう。たとえば、掲載する情報を部署ごとの分科会で決め、情報設計と CMS の担当者も同じ場で認識を合わせます。デザインの時期が来ても情報設計が終わっていなければ、承認を待つのが基本です。先に始める場合は、サイト全体のデザインのトーン&マナー(配色や雰囲気の方針)やトップページから着手します。トップページのデザインが終わっても情報設計が固まらない場合は、会社概要やお問い合わせのように掲載内容が決まっている画面から進めていきましょう。いずれの場合も、情報設計が変わったときの修正の扱いは先に決めておきます。
分からないことは、進行中の案件であっても気づいた時点で発注側に聞いてください。次の案件では、制作会社で調べる範囲も先に決めておきましょう。制作会社で調べるのは、公開されている情報で分かること(業種の基本、事業の概要、競合、現在のサイト)までです。社内でしか分からないこと(事業の優先順位、社内の事情、今後の方針、公開していない数字)は、早い段階で発注側に聞きます。早く聞けば制作会社で調べる量が減り、制作のための調査が始まる前に事前調査を終えやすくなります。
早く聞くことに加えて、聞く深さも目的に合わせて変える必要があります。事前調査は事業を理解するために、制作のための調査はサイトに掲載する内容を決めるために行うもので、目的が違います。事前調査と同じ細かさで制作のための調査を進めるのではなく、目的に合わせて聞く範囲を変えてください。
まとめ
サイトリニューアルの失敗のうち、公開の遅れや公開後の不具合の多くは、前工程の積み残しが後工程へ押し出されて起きます。その遅れは最後に、実装と検証の期間を削ることで吸収されがちです。発注側の担当者は、ヒアリングや成果物が工程表どおりに進んでいるかと、実装と検証の期間が削られていないかの2点を確認してください。制作会社のディレクターは、兆候に当てはまったら集まった情報を発注側と一緒に絞り込み、詰まりそうな工程を分けて進めましょう。分からないことは早く聞き、次の案件では事前調査を早めに終えるようにしてください。
制作会社から示された工程表で、工程の順番や実装と検証の期間が妥当か迷う場合は、株式会社ライスボールにご相談ください。現在の制作会社との進め方はそのままで、第三者の立場から確認します。お問い合わせのページからお送りください。